【正直不動産】新・中間省略登記|任意売却でも三為契約はある?

『正直不動産2』は2024年1月からNHKにて放送中のテレビドラマです。

原作コミック(『正直不動産』第1~2巻)に「新・中間省略登記」の回がありますが、新・中間省略登記についてご存じないという方が多いのではないでしょうか。そこで今回は、新・中間省略登記について解説します。

本記事では、第三者のためにする契約、三為契約と任意売却についても取り上げています。住宅ローンをはじめとする借金返済のため、自宅を売却しようと思っている方は、ぜひご覧ください。

【正直不動産】第7~8話「新・中間省略登記」のあらすじ

登坂不動産の営業マン、永瀬財地(ながせさいち、ドラマでは山下智久さん)は、物件を測量した帰り、通りすがりに高く売却できそうな土地を見つけます。「お宝を発見した!」と思った永瀬はすぐさま区役所へ。その後、登記を確認し、所有者の高齢女性、衛藤(えとう)とコンタクトを取ることに成功。

話を聞くと、どうやら永瀬が見つけたあの土地は、7年前に亡くなった衛藤の夫が生前営んでいた畳屋の作業場の跡地らしく、一人息子も大人になって畳屋を継ぐこともないので、もう売ってしまってよいのだと言います。

そこで永瀬は、近々老人ホームに入るという衛藤の手元に資金を多く残せるよう好条件で買い取ってくれる人がいないか探し始めます。

ところが、買い手を探している不動産業者は永瀬の他にいて、その人物が永瀬と同じ登坂不動産に勤めるライバル営業マン、桐山貴久(きりやまたかひさ、ドラマでは市原隼人さん)であることが発覚。しかも桐山は新・中間省略登記での取引を進めているという。

対する永瀬は正直な営業スタイルを貫き、買い手探しに奔走。結果、1億4千万円で購入するという買い手を見つけます。これは桐山が会社に申告した売り値1億3千万円を上回る額です。

こうして永瀬は桐山との競争に勝ったかのように思えますが、その日の深夜、桐山の売値が実際は1億5千万円であることがわかり…

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中間省略登記とは

A(売り主)、B(中間者)、C(買い主)の三者で不動産取引を行うとします(中間者の例として、転売目的の不動産業者が挙げられます)。所有権をAからBへ、次にBからCへと移転させたとします。このとき、以下の2つの登記方法を考えます。

方法1. A→B、B→C

AからBに所有権を移転してA→Bと登記し、BからCに所有権を移転してB→Cと登記する方法です。所有権の変動に忠実な登記方法ですが、A→Bと登記しているのでBは登録免許税を負担する必要があります。

方法2. A→C(中間省略登記)

A、B、Cの三者の取引において、所有権は最終的にCに移転します。そこでA→Cと登記すれば、Bは登録免許税を負担せずに済みます。これが中間省略登記と呼ばれる登記方法です。

中間省略登記の問題点

中間省略登記は「売買に伴うA→B→Cという所有権の移転を、Bを飛ばしてA→Cと登記する方法」です。しかしこの「途中でBに所有権を移転するのに登記はしない」という方法は、法律的にグレーでもありました。

実際、裁判所は「三者が合意していたら中間者は省いてよい」という立場でしたが、法務局(登記所)は「所有権のことでトラブルになりかねないため、中間省略登記は禁止すべきだ」という姿勢でいました(ただし過去には実務上、中間省略登記を認めたケースもあります)。

新・中間省略登記―「三為契約」と「買い主の地位の譲渡」

平成17年(2005年)に不動産登記法と呼ばれる法律が改正され、中間省略登記ができなくなりました。そこで新しく誕生した登記方法が新・中間省略登記です。「三為契約(第三者のための契約)」と「買い主の地位の譲渡」という2つの手法があります。

三為契約(第三者のための契約)

第三者のための契約、略して三為契約は、A(売り主)とB(中間者)が第三者C(買い主)のために結ぶ売買契約です。直接移転取引とも呼ばれます。

AB間の売買契約と同時に、BとCが他人物の売買契約も結ぶ(※)ことで、物件の所有権をAからCへ直接移転できます(AからBへの所有権移転登記を省略できます)。

※本来、Bが宅建業者の場合、宅地建物取引業法33条の2違反だが、平成19年(2007年)に同法が改正され、宅建業者による他人物の売買契約が例外的に認められるようになった。

買い主の地位の譲渡

買い主の地位の譲渡とは、物件の所有者が自身の持つ「買い主の地位」を譲渡することをいいます。

たとえば、A(売り主)の所有権をB経由でCへ移転する場合を考えてみましょう。まずAB間で売買契約を結びます。次に、売買契約の決済前にBがCに買い主の地位を譲渡します。すると、AB間の売買契約はAC間の売買契約として扱われます。

このように「買い主の地位の譲渡」をすれば、A(売り主)はB(中間者)に所有権の移転および登記をすることなく、C(買い主)へ所有権を直接移転できます。

ただし、BC間でのやり取りはあくまでも「買主の地位の譲渡」であり、売買契約とは異なります。B(中間者)が契約不適合責任(瑕疵担保責任)や重要事項説明義務を免除され、C(買い主)が損失を被る恐れがある点には注意しましょう。

中間省略登記と新・中間省略登記の違い

A(売り主)、B(中間者)、C(買い主)の三者で不動産取引を行ったとします。従来の中間省略登記と新・中間省略登記は、A→Cと登記する点は同じですが、所有権移転と課税に関して違いがあります。

中間省略登記は、単にA→Bという登記を省略する方法なので、AからBに所有権は移転します(Bは不動産取得税を負担します)が、その登記は行いません(Bは登録免許税を負担する必要はありません)。

一方、新・中間省略登記は、所有権の移転自体を省略する方法なので、AからBに所有権を移転せず、その登記も行いません。そのため、Bは不動産取得税も登録免許税も払う必要がありません。

なお、現在では、中間省略登記は認められませんが、新・中間省略登記は認められています。

 AからBへの所有権移転Bの不動産取得税の負担Bの登録免許税の負担登記の有効性
中間省略登記するありなし×
新・中間省略登記しないなしなし

三為契約のメリットとデメリット

中間省略登記に代わる新・中間省略登記の手法として、「三為契約」と「買い主の地位の譲渡」について紹介しましたが、不動産売買では主に三為契約が用いられます。以下では、「三為契約のメリット・デメリット」について売り主目線で紹介します。

売り主から見た三為契約のメリット

仲介手数料がかからない

三為契約を行う業者(三為業者)は、売り主から安く買い取った物件を買い主に高く売ることで、転売利益を得る業者です。三為業者は買い取った不動産を転売して利益を得ています。仲介ではないため、売り主が三為業者から仲介手数料を取られることはありません。

関連記事:不動産を任意売却する時の仲介手数料は課税対象?インボイス制度についても解説

契約不適合責任を負う必要がない

三為契約は、売り主と買い主の間に三為業者がいる売買契約です。そのため、契約不適合責任(契約後、物件に何らかの欠陥が見つかった場合に、売り主が買い主に対して負う責任)は、売り主ではなく三為業者(宅建業者)が負います。

関連記事:【正直不動産】瑕疵担保責任|任意売却した物件に瑕疵が!契約不適合責任は免責になる?

売り主から見た三為契約のデメリット

買主への売却価格はわからない

三為業者は、物件を売り主から安く買い取り、買い主に相場よりも高く売ろうとします。三為契約では、売り主は三為業者が買主にいくらで売却したのかはわかりません。三為業者が間にいなければ、売り主は物件をもっと高く売れた可能性があります。

入金に時間がかかることがある

三為契約は、売り主と三為業者間、三為業者と買い主間の両方で契約が成立する必要があります。売り主の手元にお金が入ってくるのは、三為業者が買い主を見つけて契約を結び、買い主が三為業者に入金した後です。

なお、決済期日を設定して、期日を過ぎれば三為業者が物件を買い取り、売り主に入金するという場合もあります。

任意売却でも三為契約はある?

任意売却とは、不動産を売却して売却額を住宅ローンの返済に充てる方法です。ただし任意売却を行うには、債権者(銀行をはじめとする金融機関や保証会社のこと。個人の場合もある)に抵当権(お金を借りるときに担保に設定した不動産などに付いているもの)を解除してもらう必要があります。

それでは、三為契約は任意売却でも用いられるのでしょうか?任意売却は債権者の合意が得られなければ実現できません。したがって、任意売却では三為契約はあまり利用されないというのが実情です。

関連記事:【正直不動産】任意売却|住宅ローン滞納後に競売を回避できる方法

まとめ

新・中間省略登記は、法改正されたことで出来なくなってしまった従来の中間省略登記(所有権の移転登記を省略すること)に代わる、新たな登記の方法です。「三為契約」と「買い主の地位の譲渡」という2つの手法があります。

不動産を売買する際によく使われる三為契約ですが、任意売却ではあまり利用されません。

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